聞こえてくるパイプオルガンの音色。

教会の扉が開かれると、パパにエスコートされた私は、

ゆっくりとバージンロードを歩き始め、参列席のあちらこちらからの視線を浴びる。

バージンロードの先には、牧師さんと共に、白いタキシード姿の柊也が待っている。

柊也は時には恥じらいながらも、熱い視線を私だけに向けている。

私も柊也だけを見つめながら歩く。

そして今の私に感じられるのは、一緒にバージンロードを歩くパパの体温や匂い。

それは小さな頃から感じていたパパの持つ特有の、どっぷりとした安心感。

お父さんっ子の私は、いつも、この安心感に支えられたり、甘えたり、

時には我が儘を言って、パパを困らせた。

そんな私でも、パパは無償の愛情で育ててくれた。

パパ・・・・。

パパは今、どういう気持ちでいるの?

”挙式が始まる” と、控え室に呼びに来た時のパパの目が潤んでいたのを、

思い出した私は一緒に歩くパパの横顔を見ることが怖かった。

そして迷い、思いあぐねいているうちに、

私は結局、柊也の元に辿り着いてしまった。

それなのに、いつまでもパパから離れようとしない私に、

「 美生、行きなさい。 」 とパパは囁いた・・・・。

「 美生。 」

柊也が、私の胸の内を察したのか、優しく名前を呼び掛けた。

パパ!!!!!

柊也の横に、私は並んで立つと、心の中で ”パパ” と叫び、

目で追っていた。

一番最前列のママが座っている参列席へと歩くパパの後ろ姿が、

私には、とても寂しく見え、涙が溢れ出そうになった。

でもパイプオルガンから流れる美しい賛美歌の旋律、

牧師さんの呼び掛けに起立した参列者たちの歌声の、

ハーモニーを感じると共に、

私の頭の中には ”あの日のこと” が浮かび上がっていた。





~~~

あの日、S海で柊也からプロポーズされた美生。

結婚の約束をした柊也と美生は、

その足で、そのまま彼女の実家マンションに向ったのだった。

それは、もちろん2人の結婚する意志を、

美生の両親であるレンとミオに正式に伝え、挨拶をするためであった。

日曜で仕事が休みのため、レンとミオが家にいることを知っている美生は、

予め携帯から連絡をし、これから訪問する旨を伝え、了解も得た。

柊也が、美生の実家である山下家に行くことは、初めてではない。

お正月を始めとする、ちょっとしたイベントなどで、

彼女の実家に招かれることがあり、

兄夫婦である礼司、千春たちからは、もちろんのこと、

レンもミオも、彼には好感触を示しているのは間違いない。

ーーパパもママも、柊也のことを、とても気に入ってくれている。

   きっと私たちの結婚を喜んでくれる。

自分たちの結婚を、レンとミオが喜び、気持ちよく祝福してくれることに、

美生は微塵も疑わなかった。

午後3時過ぎ、実家である山下家に到着すると、いつものように美生は、

母親のミオと共に、お茶やお茶菓子の支度のため、キッチンに入る。

そうなるとリビングには、父親のレンと柊也だけが残ることになる。

美生は聞こえてくる、リビングでの2人の何気ない会話が、

いつも好きだった。

もちろん、その日も2人の会話は楽しげで、いつもと変わりがない。

まるで既に柊也が家族の一員になっているかのように、美生はふと思う。

「 ねぇ、美生!

  今夜は柊也くんも夕飯、食べていくでしょ? 」

お茶の支度をしながら、そっとミオが尋ねてきた。

柊也が家に来ている時の、ミオの声は、いつも少しだけトーンが高くなり、

はしゃいでように、美生には感じられる。

「 うん・・・そうさせてもらうつもりだよ。

  でもね、お茶を飲みながら、今、話したいことがあるの。 」

「 それって、いい話し? 」

「 ・・うん。 」

お茶の支度が出来ると、リビングのソファーテーブルを囲み、

レンとミオ、その向かいに柊也と美生が座り、

最初のうちは和やかな4人での会話が続いていたが、

「 ねぇねぇ、美生。

  ところで、さっき言っていた ”いい話し” って? 」

笑顔で催促するミオに、柊也が意を決したかのように口を開いた。

「 今日、仕事がお休みのとこ、突然の訪問、申し訳なかったです。 」

隣に座る美生にも、彼の緊張感が痛いほどに伝わってきた。

ーー柊也・・・頑張って!!

これから彼が何を言うのか予想がついているからか、優しく微笑むミオ。

その隣で目を伏せるレン。

少しの間があったが、柊也は、そのあとに続く言葉をつないだ。

「 先程、美生さんにプロポーズをしました。

  美生さんは承知してくれたので、

  その足で、ここに挨拶に伺いました。

  ・・仕事の方は順調です。

  来年の春には、営業課の係長に昇進するので、

  これからも今まで同様に性根を入れて頑張るつもりでいますし、

  美生さんを養える貯えだってあります。

  元々、物欲がないせいか、ライフセーバーのバイトをしていた頃から、

  現在に至るまで、ほとんど使い道に困って貯めていた貯金も沢山あります。

  それと・・・・・・・・・・。

  音大を卒業してから、2人共、忙しくなって、すれ違いの生活を送っていても、

  お互いに、お互いを求め合っていることを確信できたことが、

  結婚を決意した一番の理由です。

  ・・・・・・結婚させてください、よろしくお願いします。 」

いつまでも頭を下げたままの姿勢でいる柊也に、

「 柊也くん、頭を上げて!!

  お母さんは賛成。

  よかったね、美生。

  いい話し・・・お母さんの思った通りだった。

  美生の薬指のルビーの指輪を見た時から、

  そうなんじゃないかなって思ってたの・・・。

  柊也くんみたいな男の子は、どこを捜しても、なかなか見つからない。

  美生は、幸せ者だって思うよ。

  柊也くん・・ちょっぴり甘ちゃんな娘ですが、

  こちらこそ美生のことを、よろしくお願いします。 」

涙で目を潤ませながら、自分のことのように喜ぶミオ。

ところが・・・対照的にレンは違っていた。

「 パパ? 」

美生の呼び掛けには応じずに、目を伏せたまま、

突然、レンは立ち上がり、あからさまに顔をしかめると、ミオの方に向き直り、

「 煙草を買いに行ってくる。

  それと・・急ぎの仕事が一つだけ残っているのが、実は不安なんだ。

  このまま仕事場の設計事務所に行って、仕事を片付ける。

  今夜は事務所に泊まるから、夕飯は要らない。 」

そう投げやりに言い捨てると、柊也には全く目もくれずに、

さっさと外出の支度を始めた。

彼の様子に、ショックを隠せないでいる柊也。

「 パパ?! 」

「 お父さん?!

  待って!! 」

美生、ミオが呼び止めたが、聞く耳も持たず、レンは出て行った。

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パイプオルガンの音と共に、賛美歌を歌い終わり、

参列者たちが着席すると、牧師さんの聖書の朗読が始まった。

やけに通りのいい声をした牧師さんの朗読を聞きながら、

私は、あの日、あのあとパパの後を追い、設計事務所まで行った時の事を、

一人、回想していた。


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