ダッフィー 登場人物 ダッフィー


ミッキー 山下美生 ・・・ K音大3年生 ピアノ専攻

             長身の童顔

             料理上手 花が好き 努力家


ミッキー 森田柊也 ・・・ 同大学3年生 バイオリン専攻

             長身 整った顔立ち

             4歳の時に母・響子を亡くす


ミッキー 中垣(立石)忠雄 ・・・ 柊也の父親

                 響子を深く愛す

                 昔はプロのピアニスト兼K音大ピアノ講師


ミッキー 森田響子 ・・・ 柊也の母親

             昔、K音大に通う学生でピアノを専攻(当時20歳)

             カフェ・クレッシェンドでピアノのバイトをしていた


ミッキー マスター ・・・ カフェ・クレッシェンドを経営

            美味しいコーヒーとラテアートが得意

            話し好きで、あたたかい人柄


ミッキー 中山康史 ・・・ 昔、忠雄と同僚の講師だった

             忠雄に対して好意的

             楽天的な性格


ミッキー 立石一郎 ・・・ 忠雄の元義父、奈緒美の父親

             昔、K音大の教授だった

             音楽界で力を持ち、忠雄にとって恐れる存在


ミッキー 立石ソヨ子 ・・・ 忠雄の元妻

            独身時代に恋人に裏切られた経験を持つ

              忠雄を執拗に束縛する



デールダッフィー 今まで の お話し デールダッフィー


「プロローグ」


「1」  「2」  「3」  「4」  「5」  「6」  「7」  「8」  「9」  「10」


「11」  「12」  「13」  「14」  「15」  「16」  「17」  「18」  「19」  「20」


「21」  「22」  「23」  「24」  「25」  「26」  「27」  「28」  「29」  「30」


「31」  「32」  「33」  「34」  「35」  「36」  「37」  「38」  「39」  「40」


「41」  「42」  「43」  「44」  「45」  「46」  「47」  「48」  「49」  「50」


「51」  「52」  「53」  「54」  「55」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



中垣の話しから、響子のことが出てきた途端、柊也は、

「 もっと母さんのこと聞かせてくれませんか?

  母さんの手紙には書かれてなかったことを・・・。

  オレの知らない母さん・・・ ”森田響子” のことを知りたいんです。

  あっ・・・すいません・・・オレ、あつかましいですよね。 」

「 いいんだよ。

  柊也くんは母親が必要な年頃に、響子を亡くしてしまった。

  どんな小さなことでも知りたいと思うのは当然だ。 」

中垣は柊也を優しく見つめると、

「 ・・・ボクが、ここ ”カフェ・クレッシェンド” に初めて来店した日は、

  偶然にも響子のバイトの日でもあったんだ。

  その時の響子の第一印象は・・・最悪だった・・・でも・・・。 」

そこまで言うと彼はクスッと笑い、続きを話し出した。

~~~

同僚のピアノ講師・中山から 

”カフェ・クレッシェンド” を紹介してもらった忠雄は、

夕方、大学の仕事を早めに終えると、

中山の書いた簡単な地図を頼りに車で向った。

K音大から、カフェ・クレッシェンドまでの所要時間は、徒歩でも10分足らずで、

たいした時間が掛からないため、車を大学職員の駐車場に置いたまま、

徒歩で向ってもよかったのだが、そうすると帰りまた大学へ戻らなければならなく、

義父である立石教授とバッティングすることを、忠雄は恐れた。

もしも・・・そのようなバッティングがあった場合、

忠雄は彼に理由を話さなければならなくなる。

義父・立石には、誤魔化しが利かない。

せっかく ”自分の居場所” になるかもしれない場所を見つけたのに、

義父・立石や妻・ソヨ子に知られてしまっては、

”自分の居場所” の意味さえなくなる・・・。

揺るぎない立石とソヨ子の存在が、忠雄の行動を慎重にさせていた。

その上、今日はソヨ子には、同僚のピアノ講師・中山と仕事上のことで、

相談があるので、夕飯は要らないと嘘の電話をいれた。

忠雄の嘘を、珍しくソヨ子はすんなりと受け入れた。

”カフェ・クレッシェンド” は、すぐに見つけることができた。

幸いにも大通りから外れた、車通りの少ない路地裏に、

その軽食喫茶は特に目立つことなく、

当時は周りの雑木林にとけ込むように店を構えていた。

店の外観は2週間前に開店していたこともあり、とても綺麗だった。

忠雄は軽食喫茶専用の駐車スペースに車を駐車すると、

どこかワクワクする気持ちで ”カフェ・クレッシェンド” の扉を開けた。

まるで ”希望の扉” を開けるかのように・・・。

店内に入るとコーヒーの香ばしい香りが、忠雄の嗅覚を刺激した。

店内の照明は、ほどよい明るさで、決して明る過ぎず、

特に広くはないのだが、アンティークなスタンドやオブシェも、

自然な形で視界に入り、忠雄には心落ち着く空間に感じられた。

この店の持つ独特の雰囲気のせいなのか、

5~6人の客人たちにも思い思いにフラリと来店したかのような気軽さが感じられる。

「 いらっしゃいませ! 」 「 いらっしゃい! 」

接客をしているウエイトレスである中年の女性の声と、

カウンターの中にいる中年の男の声が、忠雄を迎えてくれた。

忠雄には、その中年の男の優しい声が ”いらっしゃい” ではなく 

”おかえり” と自分を迎えてくれたように感じられ、目頭を熱くすると、

「 今、テーブル席は満席なので、カウンター席でもいいかな? 」

申し訳なさげにカウンター内の中年男が聞いてきたので、

「 ボクは一人なので、カウンター席でもいいですよ! 」

忠雄も快く答えて、カウンター席に腰を下ろした。

どうやらカウンター内にいる中年男は、この店のマスターのようだ。

”この店のコーヒーは美味しいと評判らしい” と、

同僚の中山からは聞いてはいたが、

初めての来店で、この店の味を知らない忠雄は、

無難なブレンドコーヒーを注文した。

しばらくしてマスターは淹れ立てのブレンドコーヒーを、

忠雄の前に差し出してくれた。

彼がミルクも砂糖も入れずに熱いまま、コーヒーを一口、二口と飲むと、

「 ブラック派なんだね。

  ブラックはコーヒーそのものの味を楽しめる。

  キミは相当なコーヒー好きかな? 」

「 ・・はい・・そうです。

  ここのコーヒーは、とても美味しいです。

  お世辞ではありません。 」

忠雄は本心から、そう言った。

「 ありがとう。

  美味しいと言われるまでもなく、キミの表情を見ていたら、わかったよ。

  キミは本当に美味しそうに、ワタシの作ったコーヒーを飲んでくれていた。

  とても嬉しかったよ。 」

話し好きそうなマスターは優しく微笑み、柱時計を見ると、

「 あっ・・・もうそろそろピアノの演奏タイムだ。

  この店の目玉みたいなものなんだけどね。

  今日の今の時間帯に来店してくれたキミはラッキーだよ。

  あそこのグランドピアノで、綺麗な子が演奏してくれる。

  今日、演奏してくれる子は、この近くにあるK音大の学生で、

  この店の開店と同時にピアノのバイトに入ってくれたんだ。

  その子の演奏が学生とは思えないくらい、とても素晴らしいんだよ。

  あと1分で6時半・・・準備も終えている頃だし、もう出てくるよ。 」

ーーそういえば、ここでピアノのバイトをしているK音大生がいることを、

   中山くんから聞いた。

忠雄は、同僚の講師中山から聞かされた ”森田響子” という名前を思い出した。

そうは言っても数多い学生の一人であり、

自分の個人レッスンの受け持ちでもない ”森田響子” のことを、

忠雄は全く知らない。

そろそろ演奏タイムだとのことを、マスターから教えてもらった忠雄は、

グランドピアノの方に注目していると、その人物は現れた。

白いブラウスの襟元にはスカーフ、スラックス姿のスラッとした小柄な女の子・・・。

背中まで伸びた長い髪、色白、二重の切れ長の目、意志の固そうな口元。
ーー美しい子だ・・・。

   あの子が森田響子?!

   見覚えのある顔のような気がする。

   いや?それは知らないうちにキャンパスで、

   何回か見掛けているせいだろう・・・。

   とはいえキャンパスに、あんな美しい子がいただろうか?

   中山さんは2年生の女の子だと言っていたけど、

   19や20歳とは思えない、堂々とした風格や大人っぽさも感じられる。

   はっ・・・・ボクは何を考えているんだ・・・・。

忠雄は自分よりも10歳は離れているであろう娘に、

つい見惚れている自分を恥じた。

その女の子は姿勢を正し、ツカツカとグランドピアノまで歩くと、

客人たちに頭を下げ、カウンターにいる忠雄を見つけると、

一瞬、驚いた表情をしたが、目を輝かせ、ニッコリと笑って会釈をした。

忠雄は彼女とは初対面でも、彼女は講師である忠雄のことを知っている。

「 みなさん、こんばんは。

  くつろいでいらっしゃってますか?

  カフェ・クレッシェンドに、ようこそ、お越し頂いて、ありがとうございます。

  もう秋を感じる時期になり、虫たちの鳴き声の演奏も耳に入りますが、

  虫たちに負けないくらいに、私もライバル心を燃やしたいと思います。

  今日の曲目は・・・。

  ”散歩・ヴォルフ”

  ”夜と夢・シューベルト”

  ”夜想曲・ショパン” 以上3曲を、

  私、森田響子の演奏でお送り致します。

  尚・・・私の演奏のバイトは月木の週2日なので、

  また私のピアノを聞きたいという方は、

  よろしかったらですが・・・来店して頂けると、とても嬉しく思います。

  私の癒しのスマイルを無料でサービスします!!!

  もちろんマスターの淹れるコーヒーも、よろしくお願いします。

  私は、このお店のコーヒーと空間が大好きです!

  みなさんも、ここで素敵な時間をお過ごしください。 」

頬を紅潮させ、弾んだ声の響子に、

周りの客人たちは好感触を示していたが、忠雄だけは違っていた。

ーーハキハキしてはいるが、なんてあつかましい子なんだ。

   まるで営業の挨拶だ。

   おまけに挨拶の中に冗談を入れるなんて!!

   ハンバーガーショップの宣伝でも真似ているのか?

   お客さんたちに失礼だと思わないのか?・・・あの子は・・・。

   それに加えてお喋りだ。

   挨拶が長過ぎる。

   美しい大人げな外見とは違って、やっぱりあの子は子供だ。

見た目の美しい彼女のことを、

密かに自分好みの慎ましやかな女性にと想像していた忠雄は、

一人ガッカリしたのだった・・・。

そんな彼の思いを他所に、響子は挨拶を済ますと、グランドピアノの前に座り、

演奏を始めた。

”散歩”

”夜と夢”

そして・・・最後に ”夜想曲” を・・・。

彼女の演奏を聴き、忠雄は度肝を抜かれた。

ーーどの曲も完璧に近いくらいに弾けている。

   彼女の講師である中山さんが絶賛する気持ちもわからなくもない。

   それに ”自信” がみなぎっている。

   あの子の持つ ”自信” の源とは、いったい何なんだ?

忠雄は、いつの間にか響子の演奏に聴き入っていた。

それほどに彼女の演奏は、とても心惹かれるものだった。

客人たちからの拍手を浴びる響子・・・。

彼女が演奏している途中で、誰一人、退席して帰ってしまう客人はいなかった。

「 響子ちゃん、ブラボー! 」

「 アンコール!! 」

一人がアンコールと叫ぶと、そのアンコールの叫びは、何人もの叫びに重なった。

「 ありがとうございます。

  ここでバイトを始めて、アンコールを受けたのは初めてです。

  マスター、いいですか? 」

カウンター内にいるマスターが微笑み頷くと、

「 それでは、みなさんの声にお応えして、アンコールの曲目は、

  私が個人的に一番のお気に入りの曲である ”夜想曲” を

  弾かせてもらいますね。 」

響子がアンコールに応えると、客人たちからまた拍手が響き渡った。

ーーあの子は・・・・・。

   なんて子なんだ。

   お客さんたちを虜にしたのは、あの子のピアノなのか?

   それとも・・・あの子の持つ天性の魅力のようなものなのか?

忠雄は言葉も出ず、響子を見ているばかりだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇