8月初旬。
ミオは誕生日を迎え、23歳になっていた。
今まで背中まであった、長い髪を肩までに短くし
ポニーテールや2つに結んだりする事が多くなった。
もう一目で妊婦だってわかるくらい
お腹が目立ってきたミオ。
職場でも、翔子を初め、コウスケ、園田課長やタクヤまでもが
ミオのお腹を触りたがるらしい・・・・・。
そんな話しをミオから聞くと、オレは少し変なヤキモチを焼いてしまう。
お腹の中の赤ちゃんも、もうすぐ8ヶ月に入ろうとしている。
その時にはミオは産休に入る予定だ。
これから先、仕事を続けるかどうかの話しには
ミオは、なるべく続けたいと考えているらしいが
産休の間に、ゆっくり考えていくと言っている。
お腹の赤ちゃんは、活発によく動いていて
なんといっても、とても元気だ。
こういう現実を感じながらも、オレにはまだ父親としての
実感が湧いてこない。
男なんて、そんなものなのだろうか?
ここまでくるのに、いろんな事があった・・・・・。
オレは畳の上に寝転がって、台所で片付けをしているミオを眺めながら
一人、今までのことを思い出していた・・・・・・・。
---5月に長野県安曇野の梓川の大木のある土手
《 秘密の場所 》 で
ミオにプロポーズをした、あの後、ミオの実家へ行き
父親、母親に迎えられた。
玄関口で挨拶をしても、父親は無言で、すぐに奥へ行ってしまったが
母親は気さくな人で、
「 こんな男前な息子が出来て嬉しいわ!!
自分の家と同じように、くつろいでね。
お父さんの事は気にしないで・・・。
あれでも内心は嬉しいはずなのに
寂しくなって、へそを曲げてるのよ 」 と笑って言ってくれた。
実の母親の愛情を、あまり知らずに育ったオレにとって
ミオの母親の対応は、くすぐったいものだったが
そのおかげで、オレの緊張は徐々に解けていった。
ミオと母親に部屋へ案内されて、父親と向かい合った。
オレは同棲のこと、ミオを妊娠させてしまったことを
父親に心から詫びたが、父親は頑ななままだった。
母親も懸命にフォローしてくれたが、場がぎこちなくって
重い空気の中、沈黙が、ずっと続いていた。
そんなオレと自分の父親の様子を見て気を遣い、
場を和やかにしようとするミオが、とてもいじらしく感じたのと
そんな気遣いが、ミオの身体に障るんじゃないかと心配になり
オレは勇気を出して、わざと話しの矛先を変え、
「 以前、ミオさんから
実家では、りんごを作っていると聞いていたんですが
りんごの木を育てることで、苦労はありませんか? 」 と
緊張をしながらも、さり気なく、父親に聞いた。
すると意外にも、父親はゆっくり答えだした。
「 りんごの木を育てるのは、子供を育てるのと一緒で
愛情を沢山注いでやるんだ。
技術的なものも、もちろん大切だけど
まずは愛情だよ。 」 と照れ隠しをするように言い
「 さっきから、ずっとミオが、私とキミの事を気遣っているのを知って
キミはミオの事を、不安にさせないように心配して
私に話し掛けてくれたんだね。
ミオの事を大切にしてもらっているようで
嬉しかったよ。
キミはストレートと言うか・・・。
気持ちが正直に表に出るんだろうね。
私に気に入られようと、無駄なお世辞を遣ったり
いろんな小細工をしようとする男じゃなくって安心した。
キミはミオの言っていた通りの男なのかもしれないな 」 と
初めて優しい目をしてオレを見てくれた---
---オレとミオは、その1ヶ月後の6月に式を挙げさせてもらった。
入籍だけ、先に済ませて
挙式は子供が生まれた後にでも・・・・と
2人で考えてはいたが
ミオの父親と母親が、お腹が目立たない内の方がいい。
それに子供が生まれてからだと、何かと忙しくなってしまうだろうと
言ってくれたおかげだった。
挙式の前日の夜は、
式場の近くのホテルに泊まっている、ミオの両親の元へ
ミオを行かせて、親子3人、水入らずで過ごさせた。
それはミオが、今まで両親の元を離れて暮らしていたので
どうしてもミオと両親のために、そうしてあげたかったからだった。
そして挙式当日は、お互いの身内や仕事仲間を招待しての
小さくて質素な挙式・パーティーだったけど、オレとミオは感無量だった。
白無垢に、ウェディングドレス、ワインレッドのカクテルドレスと・・・。
ミオは艶やかな花のように、とても美しかった---
寝転がっていた、オレの背後から
「 レン 」 と呼ぶ、優しいミオの声・・・で、オレは現実に引き戻された。
いろんな様々な出来事を思い出している内に、
いつの間にか、ウトウトしていたらしく
ミオが、傍に来ていた事に、オレは気付かなかった。
この頃のミオを見ていると、母親の顔になってきているように思えて
もうすぐ自分だけのミオではなくなることが
正直に寂しい気分になることがある。
人に甘える事には不器用なオレではあるけれど
それでも今のうち思いっきりミオに甘えたい・・・・・。
オレは背中向きのまま、ミオの膝に頭を乗せた。
「 パパ、甘えん坊さんだね。
でもパパの、そういうところも、ママは大好きなの・・・。 」 と
お腹の赤ちゃんに話し掛けながら
ミオはオレの気持ちを察してくれて、甘えさせてくれる。
ミオの膝の上の心地良さを感じながら、目を閉じ
ぼんやりとオレはミオに実の母親を重ね合わせていた。