あれから日付が過ぎゆき、若葉の映える季節・5月。

彼女は妊娠4ヶ月に入っていた。

つわりの方は未だに続いてはいるが

彼女はまだ目立つことのない、自分のお腹を大切そうに

手で触るようになった。

そんな彼女を見ていると、

今までオレが知っている彼女ではないみたいだった。

オレは5歳の頃、自分を捨てた、母親のことを思い出した。

母親も、あんな風に自分のお腹を触っていたのだろうか?

オレが生まれて間もない頃に

オレの父親である夫を事故で亡くした母親・・・。

今は、どうしているのだろうか?





今はまだ実感が湧いてはこないけど、お腹の中に

小さな命が生きていると思うと、無意識にお腹を触っている私。

日を重ねる毎、身体の変化と共に、少しずつママになる実感が

湧いてくるのだろうか?

もう5月・・・・・・。

彼とした 《 秘密の場所 》 に行く約束は

まだ果たされていない。

5月を過ぎると、もうたんぽぽも咲いていないかもしれない。

私は焦りを抑えながら、思い切って彼に言ってみた。





「 今月中に 《 秘密の場所 》 に行ってみない? 」 と

彼女に言われた。

オレも本心は、行きたくってならなかったが

彼女の身体が心配だったので、つわりが治まる時期にと

考えていた。

だが、その頃にはもうたんぽぽは咲いていないだろう?!

「 ミオ、身体の方は大丈夫なのか?

  行ってもいいのか? 」

そう聞いたオレに、彼女はしっかりと頷いた。





彼の仕事が一段落つく、5月の半ばに、私の故郷

長野県安曇野の 《 秘密の場所 》 に行こうと

私たちは予定を立てた。

そうと決まれば、帰る旨の連絡を、実家にしなければならない。

彼との同棲、そして妊娠・・・・。

伝えなければならないことを、私はズルズルと後回しにしてしまった。

実家の両親は、きっと驚くだろうし、ショックを受けるかもしれない。

そう思いながら携帯から電話をすると、電話口には母が出た。

私は母に、5月の半ばに日帰りで帰る事を伝えると

「 どうしたの? 」 と母。

「 ちょっと大切な用事があるの 」 と、私は伝えた。

そして彼の事を話し、今、一緒に暮らしている事

妊娠の事を、恐る恐る打ち明け、謝った。

ところが私の話しに、本来、楽天的な母はあまり動じることなく

「 ミオに、そんな人が出来たのね。

  こんないい事、どうして、もっと早く言ってくれなかったの?

  結婚と妊娠が逆になってしまっても、

  あなた達が真剣なら、私は何も言うことはないわ。

  それにミオの選んだ人だもの。

  私は、良い人だって信じるわ。

  あ~でも私、もうお婆ちゃん? 」 と

母らしいフォローをし、喜んでくれ

事実を受け止めてくれた。

でも・・・・電話を代わった父の様子は穏やかではなかった。





元々、優しい気質ではあるけれど

昔かたぎで真面目過ぎるところのある父には

私の同棲や妊娠はショックだったに違いない。

私の話す事実を受け止めてはくれたものの

「 ミオ!どうして早く話さなかったんだ?

  お前を、そんな分別つかない娘に育てた覚えはないぞ。

  それに・・・その男が気に入らない!

  ミオのことを、何だと思ってるんだ!!

  一度、殴らないと気が済まない。 」 と

いつもの父とは思えない程の剣幕で言った。

父の傍で、懸命に父の怒りを抑えようとする母の声が聞こえていた。

私は父に心から謝った。

そして彼の事を悪く言う父に

お父さんが思う程、悪い人ではないと言っても

父の怒りは治まらない様子だった。

電話の後、彼に父の様子を話すと

「 覚悟はしているよ 」 と彼は静かに言い、頷いた。





彼女の父親が怒るのも、無理はない。

オレは彼女の妊娠が、ハッキリとわかった時から

それを覚悟していた。

彼女の父親が、オレを許してくれるかは

わからないが、オレはオレの彼女への気持ちを

わかってもらいたいが故に

誠心誠意を尽くしていくしかないのかもしれない。