彼女から差し出された物が、最初は何なのかが、わからなかった。

そんなオレに

「この前、貰ったチョコを使って、お菓子を作ってみたんです。

よかったら食べて下さい」 

彼女が少しモジモジしながら言った。

えっ?

この前のチョコで?!

オレは見る見るうちに、

自分の顔が熱くなっていくのを感じた。





彼が私の作ったお菓子を受け取ってくれた。

その時に彼の顔が赤くなっていくのが見て取れ、

私は思わず笑ってしまった。

つられて彼も一緒になって笑った。

元々端正な顔立ちな、彼が笑顔になると、

とっても可愛い。

いつもこんな顔をしていたらいいのにな。

もっと彼の笑顔を、いっぱい見てみたい。





オレの様子が

そんなに可笑しかったのか?

彼女に笑われた。

オレも嬉しさと照れで一緒に笑ってしまった。

でもオレが彼女にあげたチョコが、

こんなお菓子に変わっていた事が、素直に嬉しかった。

彼女の気持ちに感謝!!

そんなウキウキした気分の中で、

ふと園田課長の存在が、オレの頭の中をよぎっていた。





彼に手作りのお菓子をあげてみて良かった。

ハニカミながらも

「うまい!」 と言って食べてくれた。

なんとなくだけど彼との距離が近くなったような気がする。

あれから私を見る彼の目が優しくなった。

でもその目の奥に言いようのない陰りを感じるのはなぜ?

そんな中で、今夜は園田課長から食事に誘われていた。





今夜は同僚のコウスケから、

2人で呑みに行こうと誘われている。

コウスケはオレにとって唯一、

肩の力を思いっきり抜ける親友だ。

今日は仕事をきり良く終わらせなきゃな。

何気に彼女に目がいった。

ドラフターに向かって、

真剣な表情をして図面を書いている、

彼女の横顔が、とても眩しく見えた。





仕事を定時で終わらせ、私はロッカールームで着替え、

駅に向かっていた。

駅で園田課長と待ち合わせる事になっている。

園田課長には食事に行くたびに、

私の愚痴を聞いてもらったり、

仕事関係の相談をさせてもらっている。

でもそれ以上の関係はない。

園田課長は、私にとって

まるで頼りがいのある、お兄さん的存在。





あー参った!

定時から30分が過ぎていた。

なにせ定時時間近くなった頃に、

現場作業員から図面の手直しを要求されてしまったのだ。

図面を書き間違えたのはオレ・・・仕方がない。

コウスケには少し待ってもらって、オレは急いで仕事を片付ける。

あー腹減ったー!

オレは定時で帰って行った、彼女の姿を思い出していた。





手直しした図面に、現場作業員からOKを貰えた。

定時時間から、2時間半が過ぎていた。

ずいぶんと待たせた、コウスケには大変に申し訳なかった。

コウスケはオレにとって、

誰よりもオレの事を理解してくれる大切な親友・・・。

父親に死なれ、母親に捨てられ、

親戚をたらい回しで孤独に育ってきた、オレには

コウスケは肉親以上な存在だ。

やっと仕事に一段落ついたので

飲み屋へ向かうべく、コウスケと一緒に駅の方へ、歩き出した。





園田課長は話題が豊富で知識も豊かな人・・・。

もちろん仕事も出来て、周りからも一目置かれている存在。

いつも食事に連れて行ってもらった後、

私は何かを得られたような気分になる。

今夜はフランス料理のフルコースをご馳走になった。

私なんかに、どうしてそこまでしてくれるのか?

時々、不思議に思う。





こんな時間でも広い駅の構内は意外と人が多かった。

今夜は、行き当たりバッタリに

どこの飲み屋に行こうかって

考えを巡らせていると、

コウスケがいきなりオレの腕を肘で突付いた。

「おい!なんだよ!」 と顔をしかめるオレ。

呆けた顔のコウスケの視線の先には、

園田課長と共に改札口に入って行く彼女がいた。





この前、コウスケが言っていた事が蘇った。

まさか?現実にそれを目にしてしまうとは・・・。

彼女からの手作りのお菓子を貰って浮かれていた、自分が

恥ずかしくなった。

遠目から見ても、オレには彼女と園田課長との関係が

親密に見えた。





食事の後、駅まで園田課長と一緒に歩いた。

園田課長と一緒にいると、とても話しが弾んで楽しい。

心が和んでくるのがわかる。

駅の改札口に入り、しばらく歩いた所で

私とは反対方向の電車に乗る、園田課長とは別れた。

今日の食事の時には珍しく彼の話題になっていた。

私は内心、ウキウキして聞いていた。

園田課長は彼の仕事ぶりに期待を持っているらしい。

それを聞いて、私は、とっても嬉しくなっていた。