「ある人物が入閣しなかったことが一番の目玉になる内閣改造なんて経験したことがない」と首をひねるのは自民党の中堅衆議院議員。高市早苗首相は、第2次改造内閣を発足させるにあたって総務相を務めていた林芳正氏を閣外に“放出”した。
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組閣後の記者会見で林氏について問われた高市首相は「個別の人事は申し上げない」とだけ述べた。だが、昨年9月の自民党総裁選で争った小泉進次郎氏は防衛相、茂木敏充氏は外相、小林鷹之氏は政調会長に留任させて取り込んだのとはあまりに好対照だ。高市首相が来年秋の自民党総裁選を見据えての人事だったことは明白だ。
内閣改造、党役員人事の前に高市首相は3回、キングメーカーでもある麻生太郎副総裁と会談している。自民党国会議員の多くは、林氏とは距離がある麻生氏の“進言”で「林切り」になったのではないかと見ている。ある旧岸田派(宏池会)の衆院議員がこう話す。
「高市首相の『林切り』は、来年秋の総裁選が始まった合図だと思います。林さんは旧岸田派の座長――つまりナンバー2であり、推薦人もすぐに集まる。(今度の組閣で)無役になったので何も気にせず出馬できる。これで、高市総裁の無投票での続投はなくなった。自民党は、来年の総裁選を軸に動いていく」
林氏は、昨年の総裁選で3位に沈み決選投票には残れなかった。しかし、議員票だけを見ると小泉氏の80票に次ぐ72票で、高市首相の64票を上回っていた。前出の中堅議員は次のように予想する。
「林さんは総裁選での勝利を目指し、ある意味、高市首相とは離れた姿勢で活動するはず。派閥を持たず、トップダウンで政権運営を行っている高市首相にとっての命綱は支持率。林さんの言動次第では、支持率に影響を与えかねず、厳しい政局になる」。
林氏に加え、高市首相によって参議院自民党の幹事長職を切られたとみられているのが「参院のドン」と呼ばれた石井準一。また、幹事長に適任として前評判が高かった武田良太衆議院議員も入閣していない。林、石井、武田の3氏が「反高市連合」で手を組む可能性もあり、高市氏にとっては頭痛の種になりそうだ。
もともと距離があったとされる林氏と武田氏だが、麻生氏とは距離があるという点では共通している。また、石井氏についても、表向きは松山政司参院会長が退任を告げたことになっているが、それを信じている自民党の議員は皆無に近いだろう。
松山氏の地盤は麻生氏と同じ福岡県。さらに、JC(日本青年会議所)出身の松山市にとって麻生氏は「会頭」経験者としての先輩。麻生氏には頭が上がらないと言われている。その麻生氏の指示もあって、松山氏があえて嫌われ役となったと見る向きもある。
林、石井、武田の3氏が、麻生氏という「敵」を持った形になっており、「敵の敵は味方」という構図が成り立つ状況だ。石井氏は、昨年4月に「自由民主党参議院クラブ」を結成し、約40人の参議院議員を束ねている。それが大きく高市首相のご機嫌を損ねたと考えられている。
一方、武田氏も旧二階派を実質的に継承しており、20人ほどの仲間を抱えている。3氏が「反高市連合」で手を結ぶと、総裁選ではある程度の国会議員票が計算できるというのが実情だ。
石井氏は旧茂木派だが、その領袖だった茂木氏との関係はとても良好とは言い難い。石井氏は、かねてから小渕優子衆議院議員を総裁選に推す構えをみせており、旧茂木派の衆議院議員も、いずれ“茂木か小渕氏か”で割れる可能性さえある。小渕氏は、自民党の力の源泉ともされる党税制調査会の幹部=インナーだったが、高市首相の消費税率1%に反対して7月に辞任している。ある参議院議員が次のように話す。
「石井さんが頑張れば、来年の総裁選で茂木さんの推薦人が足りなくなる可能性もあり、そうなると不出馬。そもそも茂木さんには人望がない。もし、総裁選で高市首相、林氏、小渕氏という三つ巴の構図になれば、1回目の投票で高市首相と林氏が1位、2位となるでしょう。決選投票で小渕氏の票をそっくり林氏に集めることもできます。石井さんは、高市首相に切られた直後、親しい議員を集めた席で怒りを露わにしていた。このまま引き下がるような人ではない。ひと波乱あるはずだ」
ごたついているのは旧安倍派も同じ。幹事長代行に萩生田光一氏、選対委員長に西村康稔氏、組織委員長には松野博一氏と「旧安倍派5人衆」はそれぞれ留任となった。その一方で、旧安倍派からは裏金議員の簗和生氏が農水相に、関芳弘氏が文科相に初入閣している。旧安倍派の政治資金パーティーで政治資金収支報告書への不記載額が1,746万円だった簗氏は党役職資格停止半年、836万円の関氏は戒告処分をそれぞれ受けていたにも関わらずだ。前出の中堅代議士が先をこう読む。
「萩生田さんは幹事長を、西村さんは財務相などの有力閣僚を狙っていた。それが裏金議員だとして見送られた。しかし、同じ旧安倍派の裏金議員が2人も入閣したことで、どちらも心中穏やかではないはず。西村さんは旧安倍派に担いでもらい、総裁選に出たくて仕方がない。萩生田さんは表向き高市首相を支えることに徹しているが腹の中は分からない。旧安倍派が一枚岩になれるとは思えない。これからの1年、自民党総裁選を睨みながらの政局が続く」
高市首相は人事で総裁選シフトを敷いた。物価高で苦しむ国民不在の政治が続く。
