離婚の日は

突然やってきた。

 

Iの方から、

「もう離婚でええやろ」と

離婚届を持ってきた。

 

 

長男が中学生になろうとしていた

頃だった。

 

 

Iが提示した条件を私は飲んだ。

心配していたお金の件も、

何とか譲歩できる範囲内だった。

 

細かいことを言えばきりがないし、

その頃のIはコロコロと機嫌が変わった。

一つ気に障れば、また喚き散らし、

めちゃくちゃなことを言い出す

可能性も多分にあった。

 

今のうちにさっさと承諾している方が

得策だと思えた。

 

 

不貞だけが原因ではない。

経済的にもIから離れている方が

身のためだった。

(その少し前に兄から

Iの会社の経営が上手くいって

いないということを聞かされて

いた)

 

 

ただ、不動産のことで

Iの家族との間で

ややこしい問題があったが、

それはなかなか解決が難しかった。

(それがきれいに解決したのは

何と昨年だった)

 

とりあえず私は離婚に踏み切った。

 

 

離婚しても生活は変らなかったが、

紙切れ1枚のことなのに、

私の気持ちは大いに晴れた。

 

 

とてもとても心苦しいことではあったが、

両親には事後報告になった。

当然Iは何の挨拶もなく、

私たちの前から消えていった。

(私はIの両親には報告しに行ったが、

この時のことを書けばまた長くなるので

割愛することにする)

 

 

母は驚き動揺して取り乱したが、

父の言葉は私の心に響いた。

 

「そうか。

 それはそれは・・」

 

かなりがっかりしていた様子で

しばらく黙っていた。

離婚の理由については何も聞かなかった。

(聞かれたとしても本当のことを

 話すつもりは毛頭なかったが)

 

 

 

それからこう言った。

 

「ま、りこ、

 人生はいろいろや。

 あんたもこれから二人の子を

 育てていかなあかんのやから、

 頑張るんやで」

 

 

これまで父にこのように言われた

ことはなかった。

 

「頑張らんでええ」

「ほどほどでええねんで」

 

いつもそんなぬるま湯に

私をつからせていた父だったが、

この時ばかりは「頑張る」ようにと

言った。

私は身が引き締まる思いがした。

 

それからこんなことも言った。

 

「何はともあれ、

 Iくんには感謝せなあかん。

 あんなにええ息子を

 二人も授かったんやからな」

 

 

今は亡き父のこの言葉を思い出す度、

私は思う。

離婚に至った本当の理由を知っていたと

してもそのように言ったのだろうかと。

そしてあの父なら

もしかしてそうだったかもしれないなとも

思ったりする。

 

 

 

 

 

 

 

離婚後、すぐに

Iから連絡があった。

何の用事かと思ったら、

ヘラヘラ笑いながら、

こう言った。

 

「お義父さん、

 何て言うてた?」

 

それが気になるなら、

逃げずに一言挨拶すればよかったでは

ないか。

どこまでも小心で卑怯なI。

 

 

そんなIに父の言った「感謝」を

伝える気にはなれなかった。

 

「離婚してよかったなって

 言うてくれたわ」

 

これは兄が言った言葉だったが、

私は父が言ったことにした。

 

 

Iは私の父に対してだけは、

敬意のような気持ちを抱いていた。

(実際離婚に至った時も、

 私に対する謝罪は一切なかったが、

 お義父さんに悪い事をしたと

 私に言ったぐらいだった)

 

せめてもの復讐だ。

 

 

電話の向こうで、

少なからずショックを受けているIの様子が

伝わった。

 

まさかまだ何かもらえるとでも思って

いたのだろうか。

そんな風にも思えた。

どこまでも甘い人間なのだ。

小気味がよかった。

 

 

 

 

 

 

 

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