この日のことはとてもよく
覚えている。
「どっか喫茶店行こ」と
Iが言ったので私は付いて行った。
行く道中、
ヘラヘラ笑いながら
「割り勘やで、オレ金ないから」と
大きな声で言った。
まるで臆することなくお金がないと
言うIに私はまた驚かされたが
不思議と好感を持った。
喫茶店に入り、
初めて向い合って座った時、
少し恥ずかしかった。
クラスメイトのSと付き合っていた関係で
一度だけいっしょに1泊のキャンプに
行ったことはあったが、
私自身はそれほど
Iと親しく会話をしたことなどなかったのだ。
Iはコーヒーを頼み、
私は多分紅茶を頼んだ。
時は昭和。
そこはまさに昭和の喫茶店。
テーブルの上にお砂糖のポットが
置かれていた。
Iは、お砂糖を2杯入れて、
そのままその付属のスプーンで
ぐりぐりと混ぜた。
「あ、スプーン・・・」
私がそう言うと、
「あ!」とさすがに恥ずかしそうに
したIの顔は今でも強烈に覚えている。
時が馴染むと、
Iはいろんな話をし始めた。
弟のことや妹のこと、親のこと。
その家族の話がとてもおもしろかったので、
私はゲラゲラ笑った。
突然なんの脈絡もなく、Iが言った。
「オレと付き合ってほしい」
ヘラヘラと笑いながら言ったが、
冗談ではなさそうだった。
へ?
その瞬間いろいろなことが頭に過った。
当時の私には付き合っている人がいた。
そのことをまず言うべきだったのだが、
そのことよりも
私はまずSのことを聞いた。
「Sとは?」
Sは内部進学せずに、
Iと同じ共学の私立大に進学していた。
「あぁ~」
そう言ってからSとはつい最近まで続いて
いたが、喧嘩別れのようになったと言った。
その話を聞いていると、
まだまだお互い未練があるようにも思えた
ので、
「まだ仲直りできるんじゃないんですか?」と
言うと、
「もし仮にSがそう言ってきても
オレはもう過去には戻りたくないわ」と
言った。
この言葉に私は妙に納得してしまったが、
すぐには返事をしなかった。
その間、
「なぁ、付き合って~な」
「なぁ、オレと付き合ってくれ」と
ずっとそう言っていた。
何でも本当にストレートに言う人だった。
そんなIに実はもう私も惹かれていたのかも
しれない。
当時付き合っていた人とは
今で言う遠距離恋愛。
ほとんど会う事もできず、
それでも付き合ってるって言えるのかな。
頭の中でそんなことを自問自答し始めて
いた。
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