私が今住んでいるところは、
元々祖父の会社と、
小さな住居のあったところだ。
もとより、祖父は40年以上も
そのオバさんの店に居候していた
わけで、ほとんどその家には
住んでいなかったはずだが。
祖父は、
父にその土地ともう一つの土地を
私にやると言っていたという。
きちんと書き記したものではなかったが、
父はいったん自分がそれを相続した後、
祖父の言葉通りに私にくれた。
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今の私の家には、
祖父が使っていた家具がいくつか
ある。
幼い頃、
祖父の箪笥を見て、
たくさん引き出しがあるのが気に入り、
「この箪笥ええなぁ」と言ったことが
あった(それは実家でのことだったのか、
それともこの祖父の住居でだったのか
記憶ははっきりしない)。
今その時の祖父の言葉を
思い出して再現すると、
こんな感じだった。
「そらそら、あんたこれ
気に入ってでしたか。
あんた、見る目持ってはりまんなぁ。
これはなかなかのええもんだす。
ほなら、これあんたにあげますわ。
わたしのもんは、みなあんたが
つこたら、よろしいわ」。
その数十年後、
その箪笥といくつかの家具は
約束通り、私の所に来た。
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ある時、父が私の家にやって来て、
リビングに置いているそれもまた
祖父が使っていた本棚を見て
しみじみ言った。
「この本棚、やっぱりな、
あんたの家に来て正解や。
あんたが欲しがったわけが
わかったわ。
ちょうどこの場所あたりにな、
おじいちゃんの事務所があってな、
ちょうどここらあたりにこれと同じように
こっち向きに置いてあったわ。
この本棚、ここに戻ってきたんやな」
感慨深げに言う父の様子に、
祖父の思いがそうさせた気がした。
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その本棚。
その本棚は、
祖父の会社がなくなった後、
父の会社に運ばれ、
長年、倉庫の一番奥にしまい
込まれていた。
ある時、会社の人が、
倉庫を整理した際、
この本棚はもう古いし汚いし
邪魔だという理由で、
処分されることになったようだ。
たまたま私が何かの用で
その時父の会社に行くと、
まさに会社の人が、
軽トラックにその本棚を
積んで捨てに行く直前だった。
「それ、
捨てるんやったら私にちょうだい」
会社の人にそう言うと、
びっくりした顔で、
こう言った。
「りこちゃん、こんな古いもん、
虫もわいてんで。
やめとき。
お父さんに言うて新しい本棚、
買うてもらい」
そう言って父を呼びに行った。
父も、首をかしげ、
「りこ、さすがにこれは古い。
汚いからあかん、やめとき」
と言った。
だけど、
私はどうしても欲しかった。
と言うより、これを処分しては
いけない気がしたのだ。
「いや、これがええねん」。
みんな苦笑いしていたが、
結局、
会社の人がその本棚を
私の家まで運んでくれた。
そういう経緯がある本棚だ。
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今や、
祖父も
それからあの日そう言った父も、
もっと言うなら本棚を運んでくれた
会社の人も亡くなった。
私自身もその時の父の年齢に
近づきつつある。
容赦なく時が流れていると感じる。
つい先日、
土地の権利書を目にする機会が
あった。
そこには祖父の名前、
父の名前、
そして私の名前。
ありがたいことだと
心から感謝できた瞬間だった。
ギリギリで処分されず
我が家にやって来た本棚は
優に100年以上前のもの、
箪笥はそれ以上前のものと
思われる。
取っ手に手を掛ける時、
ふと郷愁を感じることがある。
祖父の話と私の霊体験。
長々とお付き合いくださり、
本当にありがとうございました。
完
おしゃれなお香立てがほしいと
探している。
